ACE阻害薬の誤嚥性肺炎予防に関するエビデンス

ACE阻害薬の誤嚥性肺炎予防に関するエビデンス

「ACE阻害薬に誤嚥性肺炎予防の効果がある」と聞いたことがある方も多いと思いますが、実際のところ「本当に効くの?」「エビデンスはあるの?」と疑問に思っている方も多いと思います。そんな方の為に、ACE阻害の誤嚥性肺炎予防に関するエビデンスについて主要文献15本をまとめてみましたので、ご参考にして頂ければと思います。

ACE阻害薬とは?

ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)は降圧薬(高血圧の薬)の1種です。

よく使われるACE阻害薬の一覧は下記の図を参照してください。

Adalat.jpから引用

ACE阻害薬が誤嚥性肺炎を防ぐ作用機序は?

誤嚥性肺炎予防のためには嚥下反射および咳反射改善させる(誤嚥を防ぐ)ことが有効ですが、その嚥下反射咳反射をつかさどる神経伝達物質にサブスタンスP(サブスタンスPとは?)という物質があります。ACEはサブスタンスPを分解する働きがあるため、ACEのサブスタンスPを分解する働きを阻害するACE阻害薬嚥下反射や咳反射の改善をもたらし、誤嚥性肺炎予防に効果があるとされています。

ACE阻害薬と誤嚥性肺炎予防に関する文献一覧

重要文献は青の太文字にしています。管理人のまとめは一番下にあります。

ACE inhibitors and pneumonia.

Sekizawa K,Lancet. 1998 Sep 26;352(9133):1069.
  • 1996年3月に468人の患者を登録し、全患者を2年間調査した。
  • 追跡期間中、ACE阻害薬を服用しなかった18%(313例中56例)、ACE阻害薬を服用した7%(127例中9例)に新たな肺炎が診断された。
  • ACE阻害薬を服用していない患者の相対リスクは、ACE阻害薬を服用している患者と比較して2.65(p=0.007)であった。
  • 脳卒中の既往歴のある患者で他の降圧薬を使用した場合と比較して,高血圧症に対してACE阻害薬を使用した場合,肺炎のリスクが約3分の1に減少することを示唆している。

ACE inhibitors and pneumonia in elderly people.

Arai T,Lancet. 1998 Dec 12;352(9144):1937-8.
  • 高血圧患者516例中269例(男性125例、女性144例)にACE阻害薬イミダプリル塩酸塩を、247例(男性108例、女性139例)にカルシウム拮抗薬を投与した。60人の非高血圧患者を対照とした。
  • 1995年1月から1998年5月までの3年間、これら3群で肺炎の発生率を比較した。
  • これらの患者における肺炎の発症率は、ACE阻害薬投与群では3.3%、カルシウム拮抗薬投与群では8.9%、対照群では8.3%であった。ACE阻害薬投与群の肺炎発症率は、カルシウムチャネル遮断薬投与群に比べて有意に低かった(p=0.025)

Reduction of risk of pneumonia associated with use of angiotensin I converting enzyme inhibitors in elderly inpatients.

Okaishi K,Am J Hypertens. 1999 Aug;12(8 Pt 1):778-83.
  • 治療群は65 歳の肺炎患者 55 例とした。対照群は高齢者で、年齢と性別で頻度を症例と一致させた220例
  • 潜在的な交絡因子を調整した後の肺炎の相対リスク推定値は、非降圧薬と比較してACE阻害薬で0.38、カルシウム拮抗薬で1.84であった。ACE阻害薬の肺炎に対する予防効果は、長時間作用型ACE阻害薬使用者において明らかであった(相対リスク推定値0.24、P=.0014)

ACE inhibitors and reduction of the risk of pneumonia in elderly people.

Arai T,Am J Hypertens. 2000 Sep;13(9):1050-1.
  • 脳卒中患者394人のうち,ACE阻害薬使用者では3.8%(208人中8人)が新たに肺炎を発症し,カルシウム拮抗薬使用者では8.0%(186人中15人)が新たに肺炎を発症した。
  • 脳卒中を伴わない485例では、ACE阻害薬使用者で1.9%(258例中5例)に新規肺炎が認められ、カルシウム拮抗薬使用者で4.4%(227例中10例)に新規肺炎が認められた。
  • 寝たきり患者91例中,ACE阻害薬使用者で6.3%(48例中3例)に新たな肺炎が認められ,カルシウム拮抗薬使用者で16.3%(43例中7例)に新たな肺炎が認められた。
  • 寝たきりではない303例では、ACE阻害薬使用者154例中5例(3.2%)が新規肺炎を発症し、カルシウム拮抗薬使用者149例中8例(5.4%)が新規肺炎を発症していた。

Angiotensin-converting enzyme inhibitors, angiotensin-II receptor antagonists, and pneumonia in elderly hypertensive patients with stroke.

Arai T,Chest. 2001 Feb;119(2):660-1.
  • 脳卒中を有する高齢の高血圧患者404例を対象に,ACE阻害薬の肺炎に対する阻害活性を検討した.
  • 404例中219例(男性98例,女性111例)にACE阻害薬のみを投与し,残りの195例(男性97例,女性98例)にはアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)のみを投与した。1998年1月から2000年5月までの2年間の肺炎発症率を両群間で比較した。
  • ACE阻害薬投与群では4.4%(10例)に新規肺炎が認められ,ARB投与群では11.2%(23例)に新規肺炎が認められた。ACE阻害薬投与群の肺炎発症率はARB投与群に比べて有意に低かった(p=0.013)

Effects of an angiotensin-converting enzyme inhibitor-based regimen on pneumonia risk.

Ohkubo T,Am J Respir Crit Care Med. 2004 May 1;169(9):1041-5.
  • 10カ国(オーストラリア、ニュージーランド、フランス、ベルギー、イタリア、日本、中華人民共和国、スウェーデン、英国、アイルランド)の172の共同研究施設から、脳卒中および/または一過性脳虚血発作の既往歴を持つ6,105人の患者が登録された。
  • 無作為化された参加者のうち,3,051 例が積極的治療(ACE阻害薬+利尿剤)に割り付けられ,3,054 例がプラセボに割り付けられた.
  • 積極的治療群とプラセボ群における誤嚥性肺炎のリスクを比較した。
  • 積極的治療群のにおいて相対リスクの減少は19%であったが、有意差はなかった(p = 0.09)下図参照
引用:Am J Respir Crit Care Med. 2004 May 1;169(9)
  • アジア系の参加者のサブグループでは、肺炎のリスクが有意に減少した(相対リスクの減少47%、p=0.009)が、アジア系以外の参加者では明らかな減少は見られなかった(相対リスクの減少5%、p=0.7)下図参照
引用:Am J Respir Crit Care Med. 2004 May 1;169(9)

Do angiotensin-converting enzyme inhibitors or angiotensin II receptor blockers decrease the risk of hospitalization secondary to community-acquired pneumonia? A nested case-control study.

Etminan M,Pharmacotherapy. 2006 Apr;26(4):479-82.
  • 1996年から2000年の間に再灌流術を受けた冠動脈疾患患者47,148人のコホートから、市中肺炎患者1666人とタイムマッチした対照者33,315人が同定された。
  • ACE阻害薬を投与されている患者と市中肺炎の入院との間には関連は観察されなかった(リスク比 0.98)

Angiotensin-converting enzyme inhibitor use and protection against pneumonia in patients with diabetes.

van de Garde EM,J Hypertens. 2007 Jan;25(1):235-9.
  • 研究対象集団は、1987年から2001年の間に糖尿病(1型および2型の両方)と診断された英国の一般診療研究データベースに登録されている全患者
  • ACE阻害薬が使用されたのは4719例中12.7%、対照群1万5322例中13.7%であった
  • 交絡因子を調整した後、ACE阻害薬治療は肺炎リスクの有意な低下と関連していた(調整後OR=0.72)
  • ACE阻害薬の使用は肺炎リスクの有意な低下と関連しており、血圧低下作用とは別に、糖尿病患者の肺炎予防に有用である可能性がある。

Risk of pneumonia associated with use of angiotensin converting enzyme inhibitors and angiotensin receptor blockers: systematic review and meta-analysis.

Caldeira D,BMJ. 2012 Jul 11;345:
  • システマティックレビューおよびメタアナリシス
  • 37件の適格研究が含まれた。
  • ACE阻害薬は、対照治療と比較して肺炎リスクの有意な低下と関連していた(19研究:オッズ比0.66)
  • 脳卒中患者では、ACE阻害薬投与群では対照群と比較して肺炎リスクが低かった(オッズ比0.46)
  • ACE阻害薬は、アジア人患者の肺炎リスクを非アジア人患者と比較して有意に減少させることと関連していた(オッズ比0.43)

Angiotensin-converting enzyme inhibitor use and pneumonia risk in community-dwelling older adults: results from a population-based case-control study.

Dublin S,Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2012 Nov;21(11):1173-82. 
  • 米国ワシントン州の統合医療提供システムであるGroup Health(GH)で実施された症例対照研究のデータを使用した。
  • ACE阻害薬使用群と非使用群を比較した肺炎のオッズ比は0.99であった
  • ACE阻害薬の使用は、地域居住高齢者における肺炎リスクの低下とは関連していない。

Post-stroke pneumonia prevention by angiotensin-converting enzyme inhibitors: results of a meta-analysis of five studies in Asians.

Shinohara Y,Adv Ther. 2012 Oct;29(10):900-12.
  • メタアナリシス
  • 脳卒中後の患者8,693人にACE阻害薬と他の降圧剤、またはプラセボを対照として投与した。
  • すべての研究においてACE阻害薬は予防効果を示し、コントロール群と比較して相対リスクは0.32~0.81であった。
  • 複合研究ではACE阻害薬投与群と対照群の全体的な相対リスクは0.61であった。
  • アジア人患者では、相対リスクは0.42であった。
  • 日本人患者ではACE阻害薬と他の降圧剤との比較で、さらに大きな予防効果を認めた(相対リスク0.38)

Angiotensin-converting enzyme inhibitor/angiotensin II receptor blockers and pneumonia risk among stroke patients.

Liu CL,J Hypertens. 2012 Nov;30(11):2223-9. 
  • 1998年から2007年までの期間に台湾の国民健康保険研究データベースを用いて13,832例の症例交差研究を行った。脳卒中患者集団から肺炎を発症した13,832例が登録された。
  • ACE阻害薬の使用は肺炎リスクの低下(オッズ比0.70、P < 0.01)と関連していた。

Pneumonia risk and use of angiotensin-converting enzyme inhibitors and angiotensin II receptor blockers.

Liu CL,J Epidemiol. 2013 Sep 5;23(5):344-50.
  • 2005年の台湾健康保険データベースを用いて症例交差研究を実施した。1997年から2007年の間に肺炎で初めて入院した患者のデータを分析した。新規肺炎による入院症例10990例を同定した。
  • ACE阻害薬またはARBの使用は肺炎とは関連していなかった:ORはそれぞれ0.99(95%CI、0.81-1.21)および0.96(0.72-1.28)であった。

Does Low Dose Angiotensin Converting Enzyme Inhibitor Prevent Pneumonia in Older People With Neurologic Dysphagia–A Randomized Placebo-Controlled Trial

Lee JS,J Am Med Dir Assoc. 2015 Aug 1;16(8):702-7
  • 低用量ACE阻害薬が脳血管障害の嚥下障害患者において肺炎予防効果があるかを検証した無作為化プラセボ対照試験の論文
  • 低用量ACE阻害薬を26週投与(リシノプリル2.5mgを1日1回就寝時に投与)し、肺炎の発生率、嚥下機能、死亡率を比較しました。
  • 低用量ACE阻害薬において嚥下機能はわずかに改善(下図:Table3)したが、肺炎予防効果はなくむしろ死亡率を増加させる可能性を示しました(下図:Table2)
引用:J Am Med Dir Assoc. 2015 Aug 1;16(8):702-7

Association between Angiotensin-Converting Enzyme Inhibitors and Post-Stroke Aspiration Pneumonia.

Kumazawa R,J Stroke Cerebrovasc Dis. 2019 Dec;28(12)
  • 脳卒中後遺症患者における、ACE阻害薬の誤嚥性肺炎予防効果をARBと比較して検討した論文
  • 日本のデータベースを使用して、2010年7月から2016年12月までの脳卒中患者のうち、入院中に誤嚥性肺炎を発症した患者を対象とし、14日後、30日後、90日後の誤嚥性肺炎による再入院率について比較した。
  • 14日間の再入院(0.7%対0.8%)、30日間の再入院(1.3%対1.3%)、90日間の再入院(2.4%対2.6%)で、ARBグループとACE阻害薬グループの間に有意差は見られませんでした。ARBグループと比較したACE阻害薬グループのハザード比は有意ではありませんでした。
  • ACE阻害薬は脳卒中後誤嚥性肺炎の予防効果があるとは結論づけられなかった。

管理人のまとめ・感想

  • ACE阻害薬の誤嚥性肺炎予防に対するエビデンスは、脳卒中患者かつ、日本人に関してはある程度高いエビデンスが存在している様です。
  • 脳卒中の既往のない患者や降圧剤を内服していない患者に対する誤嚥性肺炎の1次予防的な効果は、今のところはなさそうです。

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