脳卒中関連サルコペニアとは?

脳卒中関連サルコペニアとは?

脳卒中関連サルコペニア(stroke-related sarcopenia)についてとてもよくまとまった文献がありますので、是非皆さんに紹介したいと思います。

New understanding of the pathogenesis and treatment of stroke-related sarcopenia

Biomedicine & Pharmacotherapy Volume 131, November 2020, 11072

ハイライト

脳卒中関連サルコペニアは二次性サルコペニアの一種と考えられている

脳卒中患者におけるサルコペニアの正確なメカニズムはまだ明らかになっていない

簡便で便利なリハビリテーション検査や臨床検査をスクリーニングに利用できる

脳卒中関連サルコペニアには注意が必要

1.はじめに

 サルコペニアは症候群の1つで一次性サルコペニア二次性サルコペニアに分けられます。加齢に伴うサルコペニアは一次性サルコペニアと呼ばれ、身体の老化の過程現れ高齢者に多く見られます。二次性サルコペニア活動性サルコペニア疾患性サルコペニア栄養性サルコペニアに分けられ、臨床では明確な区分が出来ないことが多いです。その中でも、疾患関連サルコペニアは筋萎縮の進行を加速させ、疾患過程の一部となります。近年、脳卒中後の筋組織特性の変化が注目されています。 

 先行研究では脳卒中後の片麻痺側の大腿部の筋肉面積と筋肉量は正常大腿部に比べ20~24%低く筋肉内脂肪は正常大腿部に比べて17~25%高くなっていたという報告がある(Neurorehabil. Neural Repair, 25 (9) (2011), pp. 865-872)。さらには脳卒中後3週間から6カ月以内には麻痺側の筋肉だけでなく、非麻痺側の筋肉量の減少と筋肉内脂肪の増加がみられるとの報告もあり、脳卒中患者の四肢の筋肉量は健常成人に比べ有意に低いことが示されています(Int. J. Stroke, 5 (5) (2010), pp. 395-402)。近年、この種の筋萎縮や機能低下は「脳卒中誘発性サルコペニア」や「脳卒中関連サルコペニア」として知られています。

2.脳卒中関連サルコペニアの疫学

 最近の臨床研究では脳卒中後のサルコペニア有病率14~18%であることが示されており、今後20年で増加すると予想されています(Arch. Phys. Med. Rehabil., 98 (2017), pp. 495-499)。

3.脳卒中関連サルコペニアの病態

 脳卒中関連サルコペニアの正確な機序はいまだに不明であり、不動機能性筋萎縮摂食嚥下障害炎症交感神経の過剰活性化脱神経と関連している可能性があります。

3.1 不動と筋萎縮

 脳損傷と上位運動ニューロン障害によって片麻痺が発生します。神経障害と不動という二つの要因によって廃用性筋萎縮が発生する。急性期脳卒中患者では、入院中の1日の身体活動時間が40分未満というデータもある(Stroke, 35 (2004), pp. 1005-1009)。長時間寝たきりの患者では、筋力の低下が筋肉量の低下よりも早く起こり、低活動が筋力の低下を招き、筋力低下がさらに運動能力を低下させ、悪循環を形成している。四肢の運動不足はインスリン抵抗性につながり、グルコース依存性のエネルギー代謝に影響を与えるだけでなく、インスリン合成代謝の低下にもつながる。ある研究によれば、健康な高齢者が10日間寝たままでいると、筋肉のタンパク質合成が30%減少し、下肢の除脂肪体重が6%減少し、結果として筋力が16%減少することが示されている(JAMA, 297 (2007), pp. 1772-1774)

3.2 摂食嚥下障害

 摂食嚥下障害は脳卒中後の主要な合併症であり、患者の24.3~52.6%に合併するとされており、低栄養や回復過程に影響を及ぼす。脳卒中患者の栄養状態は、入院中の栄養不足や摂食嚥下障害が続くことで低下していることが多く、栄養供給不足や同化障害により組織消費が早くなることが指摘されています。

 過体重の脳卒中患者は、低体重の患者よりもリハビリテーションの結果が良好である(J. Cachexia Sarcopenia Muscle, 5 (2014), pp. 269-277)。脳卒中後の身体機能と生存率に対する過体重と肥満の優位性は「肥満パラドックス」と呼ばれている(Stroke, 42 (1) (2011), pp. 30-36)。肥満患者は高い代謝予備能をよりよく補い、過剰な異化作用による筋肉の減少に抵抗できる可能性がある。

3.3 交感神経の活性化と炎症

 急性期脳卒中患者における身体的ストレス精神的ストレス疼痛自律神経系の障害は局所および全身の交感神経系の過剰な活性化、コルチゾールの増加、視床下部ー下垂体ー副腎経路の活性化を誘発しうる。交感神経の活性化は、免疫抑制、炎症、異化活性化を引き起こし、その後、高血圧、不整脈、体温上昇を引き起こす可能性がある。過剰なカテコラミンで増強された交感神経刺激は全身性の異化亢進の原因となり、インスリン抵抗性と脂肪分解およびタンパク質分解の増加によって、脂質エネルギーの蓄積が失われます。

 炎症性サイトカインは組織の分解を誘導し、体重減少を加速させ、その中でもTNF-αは筋肉量の低下において重要な役割を果たしている。脳卒中患者における筋収縮力の低下は、TNF-αレベルを上昇させる硝酸生成物の媒介によるものもある。中高齢の脳卒中患者を対象とした研究では麻痺側下肢のTNF-αレベルが対照群よりも高いことが明らかとなっている(Arch. Phys. Med. Rehabil., 98 (2017), pp. 495-499)。

 重要なことは、交感神経の活性化TNF-αの活性化と分泌に関連している事である。

 3.4 脱神経

  α運動ニューロンの喪失はサルコペニアの病態における重要な因子である。サルコペニア患者75人と非サルコペニア患者74人を調査した横断研究では、4分の1近くのサルコペニア患者に筋量の減少を伴う運動ニューロンの喪失が認められた。脳卒中後早ければ4時間後には患肢筋組織の運動単位の数が減少している。脳卒中慢性期では運動ニューロンの減少はさらに続く。

4. 脳卒中関連サルコペニアの評価とスクリーニング

 サルコペニアの診断は筋肉量と筋力の評価を基準とする。主な評価指標は、筋量の減少筋力低下ADLの機能障害であるが、一般的なスクリーニングと評価は脳卒中患者には適していない。脳卒中後の障害は脳卒中関連サルコペニアのスクリーニングに困難をもたらし、脳卒中の特定の状況下での身体機能を判定する為に、簡便で便利なリハビリテーション評価や臨床検査があり、スクリーニングとして利用できる(下図)

4.1 骨格筋の質(≒量)の評価

 現在、骨格筋の質(≒量)を測定する方法としてはCT,MRI,DEXA法,BIA法など多くの方法があり、その中でもDXA法は脳卒中患者の体組成を測定するのに適しています。

 DXA法は脳卒中患者の体組成測定に最も広く用いられているが、CTやMRIの方が四肢の断面積を評価することによって筋肉と脂肪組織を正確に区別することが出来るので精度が高い。ある研究では脳卒中後の筋肉量低下を評価したが、DXAで評価すると患肢と大腿部の筋肉は3~4%減少だったが、CTでの測定では20%の減少を認めた。筋肉の質(≒量)に関する測定法については今後さらなる研究が必要である。

4.2 骨格筋力の評価

 一般的に使用されている方法としては握力測定膝屈曲伸展筋力最大呼気流量測定(ピークフロー)などがあり、握力は上肢の筋力を測定する為の信頼性の高い簡便な指標である。単独で使用しても良いし、ピンチ力と組み合わせて使用してもよい。

4.3 骨格筋の機能評価

  歩行速度はサルコペニアの診断基準として確立されている(J. Am. Med. Dir. Assoc., 12 (2011), pp. 403-409)。しかし脳卒中患者の約80%は四肢機能障害を有しており、歩行速度の測定は麻痺そのものや麻痺側下肢と健側下肢の耐荷重の非対称性の影響を大きく受ける為、脳卒中患者への適応は限定的である。脳卒中患者の下肢筋力の調査では、6分間歩行試験の距離が麻痺側下肢の筋力と正の相関があることが明らかとなっているが、この結果は自立歩行が可能な脳卒中患者に限られる。

 SPPBT(short physical performance battery test)はバランス能力、歩行速度テスト、座位からの立位テストなどを測定するテストだが、この検査も脳卒中患者の70%が障害を理由に測定を受けることが出来ず、脳卒中患者への適応が制限されている。

 リバーミード運動評価(Rivermead motor assessment)はジスキネジアの程度やリハビリテーション療法の進捗状況を簡便且つ定量的に測定する方法の一つである。BI(Barthel index)やmRS(modified Rankin scale)も良く用いられる。これらの検査が脳卒中関連サルコペニアのスクリーニングに適しているかはさらなる臨床研究が必要である。

5. 脳卒中関連サルコペニアの治療

5.1 リハビリテーション

 サルコペニアの治療として運動が最も有効な方法です。運動トレーニングは、mTORC1の活性化酸化ストレスの軽減炎症の抑制UPSの不活性化ミトコンドリア生合成の促進IGF-1/筋ソマトスタチン比の増加インスリン感受性の向上など骨格筋に有益な効果がある。リハビリテーショントレーニング後の片麻痺患者の上肢握力の改善は、C末端側アグリン断片(CAF)の減少につながる可能性があることが示されている(J. Cachexia Sarcopenia Muscle, 7 (2016), pp. 60-67)。CAFは筋肉量の増加に加えて、神経筋接合部の変性によるサルコペニアのマーカーとなる可能性がある。CAF22が急性期脳卒中患者における筋肉状態の血清マーカーとなり得るかどうかは今後の調査が必要である。

5.2 栄養療法

 脳卒中患者の多くは低栄養である。脳卒中関連サルコペニアと加齢性サルコペニアは類似した特徴を有していることから、脳卒中患者におけるタンパク摂取の推進が確認されている。高齢のサルコペニアを有する脳卒中患者にロイシンを豊富に含むアミノ酸を8週間(1.2g/日以上)補給することにより、日常生活動作が有意に改善され、筋肉量と筋力が増加した(Nutrition, 58 (2019), pp. 1-6)。しかし、興味深いことにロイシンを豊富に含むアミノ酸の補給は、運動と組み合さなければ効果が無い可能性がある(Am. J. Clin. Nutr., 89 (2009), pp. 1468-1475)。つまり、栄養補助食品だけではすべての患者に効果があるわけではなく、抵抗運動と組み合わせて栄養補助食品を摂取することで筋肉量補改善することが出来るという事である(Am. J. Clin. Nutr., 96 (2012), pp. 1454-1464)。

 さらに比較的高レベルのω-3脂肪酸抗酸化物質は脳卒中や他の心血管イベントの発生率を低下させる可能性がある。脳卒中後のリハビリ期間中に抗酸化物質(ω-3脂肪酸の有無に関わらず)を投与された患者のリハビリ効果には有意な差はないが、追跡調査から1年以内の死亡率が低下する傾向があることが研究で示されている(Cerebrovasc. Dis., 27 (2009), pp. 375-383)。ビタミンEには抗酸化作用があり(Oxid. Med. Cell. Longev., 2014 (2014), Article 914853)、ビタミンDには筋力にプラスの効果がある(J. Clin. Densitom., 18 (2015), pp. 478-482)。カルシウムマグネシウムセレンなどのミネラル栄養素は、観察研究でサルコペニアを予防することが示されている(J. Am. Med. Dir. Assoc., 19 (2018), pp. 6-11)

5.3 薬物療法

 脳卒中関連サルコペニアの研究ではサンプル数が少ない為、薬物療法の理解は限られています。テストステロン選択的アンドロゲン受容体拮抗薬(SARMs)成長ホルモンACE阻害薬エダラボンなど。

5.3.1 テストステロン

 テストステロンは骨密度や骨強度を高めるだけでなく、高齢者の筋力アップにも効果があります。低用量のテストステロンは筋肉量を増加させて脂肪体重を減らすことができ、高容量のテストステロンは筋肉と筋力を同時に増加させることが出来る為、男女ともに効果的である。しかし、テストステロンが適応となるのは明らかな低テストステロン症であり、加齢性腺機能低下症(LOH症候群)のある高齢男性患者に限られます。脳卒中関連サルコペニア患者にテストステロン治療を行うことにはまだ議論の余地がある。

5.3.2 選択的アンドロゲン受容体モジュレーター(SARMs)

 テストステロンの重篤な副作用を回避する為に、テストステロンに類似した同化作用を有するが重篤な副作用が少ないエノボサームなどのSARMsが開発されている。SARMsは、いくつかの全臨床試験でサルコペニアに良い効果がることが証明されているが、その有効性と安全性を確認する為には大規模な試験が必要である(Calcif. Tissue Int., 98 (2016), pp. 319-333)。

5.3.4 ACE阻害薬

 ACE阻害薬のペリンドプリル(商品名:コバシル)が左室収縮機能障害を有する高齢者の歩行距離を増加させることが示された研究もある(J. Am. Geriatr. Soc., 53 (2005), pp. 1996-2000)。HYVETの研究ではぺリンドプリルが股関節骨折のリスクを低下させることが示されている。しかし、ACE阻害薬の骨格筋への直接的な影響を示す証拠はまだない(Age Ageing, 39 (2010), pp. 609-616)

5.3.5 エダラボン

 エダラボン(商品名:ラジカット)は最近では多くの国で筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療薬として承認されている(Lancet Neurol., 16 (2017), pp. 505-512)。注:最近エダラボンのALS患者への治療に対して疑問を呈する文献も同じくLancetから出ています(Lancet Neurol . 2020 Sep;19(9):717-718.)

 Noritomiらは、急性期脳梗塞患者にエダラボンを短期群(3日間)と長期間(10-14日間)の2つのスキームで投与し、3か月後にエダラボン長期投与群が急性脳梗塞患者の廃用性筋萎縮の進行を抑制し、下肢運動機能をより大きく改善し、脳梗塞の予後を改善できることを明らかにした(Drugs R&D, 10 (2010), pp. 155-163)。しかし、脳卒中における神経保護剤としてのエダラボンの潜在的な有用性はRCTで裏付けられておらず、より大きな患者集団での有用性を確認する必要がある。

 また、アクチビン受容体経路調整薬、ガストリン、交感神経β2受容体刺激薬、可溶性デコイActⅡb受容体(ACE031)などが現在のサルコペニア研究のホットスポットとなっているが、脳卒中関連サルコぺニア患者への応用研究は不足している。

5.4 理学療法

 麻痺により運動が出来ない患者に対しては、水治療全身振動機能的電気刺激(FES)などの理学療法を用いることが出来る。その他、電磁波や超音波などの物理的要因も筋力低下の予防・治療に一定の役割を果たしているが、具体的なメカニズムや適応条件については解明する必要がある。

6. まとめ

 脳卒中とサルコペニアは独立した2つの慢性疾患ですが、互いに影響しあっています。併存疾患の状態では、患者さんは二重の負担を強いられ、その結果、生活の質の低下、入院・死亡率の上昇、医療資源の消費が深刻化します。残念ながら、脳卒中後の身体障害はサルコペニアのスクリーニングや診断の困難さに繋がっています。これは脳卒中後のサルコペニアに関する文献が少ないことにも起因している。現在のところ脳卒中関連サルコペニアでは臨床では十分な注意が払われていないが、脳卒中関連サルコペニア患者には、身体運動栄養補給薬物療法の併用が有効である可能性がある。脳卒中患者におけるサルコペニアの発生に注意を払う必要があり、適切なスクリーニング方法を模索し、患者のQOLを向上させるためには、大規模な国際的前向き研究と介入治療を早期に実施する必要があると考えられる。

管理人まとめ

脳卒中後にサルコペニアが合併する可能性を常に考慮し、早期診断・早期介入できるように準備する必要がありそうです。治療法としては、まずは運動療法・栄養療法(リハビリ(運動)+リハ栄養)が中心となり、薬物療法については今後の研究結果に期待というところでしょうか。

 

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